
2017年5月末、香港トラム(香港電車有限公司)のカンパニーロゴが新しくなりました。1974年から使われてきたトラムの軌道をイメージした赤基調のものから、わかりやすくトラムの車体を描いたものへ。実に43年ぶりの刷新です。新ロゴの背景の円形部分は、香港の区旗にも描かれているバウヒニアの花の葉の部分をデザイン化したものだそうです。

同時に「笑聲笑聲 滿載叮叮 Catch a ride, Catch a smile」(笑顔を乗せてトラムは行くよ~という感じかしら)をコーポレートスローガンとして、車体ペイントやトラム駅のボードなどでプロモーションを展開しています。
キャンペーンのラッピングのトラムのほか、観光トラムなどの特殊車両をのぞく全トラムのバンパー部分に笑顔の口が描かれています。

香港トラムについて簡単におさらいしておくと、2階建て路面電車・トラム(広東語で電車)は香港最古の公共交通機関で、今年で開業113年。どこから乗ってもどこまで乗っても均一料金(大人2.3HKドル)で、香港島北部を西へ東へと時おり「叮叮♪」と警鐘を鳴らしながら走行しています。
ちなみにこの「叮叮」は(Ding Ding/ディンディン)と読み、トラム警鐘の音を表すほか、トラムそのものの愛称でもあります。叮叮、音も字も、なんともいえぬ可愛らしさがありますよね。

現在トラムは、貸し切り運行ができるパーティートラム2台と、香港の街とトラムの歴史を学びながら巡る「TramOramic Tour」の観光トラム1台を含め164台が走行しています。1日の乗降客は約20万人。それだけの人を運ぶのですから、とにもかくにも「安全第一」!! 安全な運転はもちろん、細心の注意を払った整備が日々行われています。
トラムの整備が行われる電車廠(Tram Depot)は、西の屈地街(Whitty Street)、東の西灣河(Sai Wan Ho)の2カ所があり。石塘咀では180人の整備士が、毎日の点検や細かな調整、時には大がかりなオーバーホールも行っています。この春、念入りな点検・調整が行われた120號は西灣河で整備が行われたそうです。


軌道に触れる車輪は、職人さんが目をこらし、手で触れながら少しずつ丁寧に磨いていました。まさに、ミリ単位での調整です。

機械で計測などはしますが、細かく微妙な調整は職人の感覚的な部分が重要とのこと。土台となる車輪、心臓部のエンジン、車体を支える骨組み、どのパーツも職人さんがいてこそ調整が可能なものばかり。街中をゴトゴト走るトラムを支えているのは、やっぱり昔ながらの職人さんが丁寧に丁寧を重ねた手仕事によるものでした。
ボディが外された土台はこんな風。ネジ一本、細かな部品ひとつひとつを複数人での確認の上で取り付けていきます。

大切に大切に使われるトラムも、年に数台はリタイアします。リタイアした車体からも慎重にパーツを取り出し、磨き、手入れして別の車体の整備用にストックするとか。古い車体のパーツは新たに作るのが容易ではないということもありますが、低料金での運行を続けるためにできる限りムダは排除するという姿勢もあってのことのようです。

丸裸にされてしまったトラムですが、次に命をつないでホッと役目を終えたように見えました。勝手に共鳴して「最後までがんばったんだな、人生ならぬ車生を全うしたんだな」とちょっとしんみり。もしかしたら私もこの車両に乗ったかも……お疲れ様でした。
いつもきれいに磨かれた姿で走行しているトラムは、洗車機で洗ったあと、くぼみや出っ張りなどの機械では届かない細かなところは手作業で洗浄しています。時には長いブラシで、時にはしゃがみ込んで、何人もの人が利用者の目線で直に手をかけているから、いつも清潔で気持ちよく乗れるのですね。


安全で安定した走行があたりまえ、車体も中も整備されていてあたり前と思いがちでしたが、そのあたり前の裏にはこうして手を尽くす人がたくさん。パーツのリサイクルなども含めて知らなかったことも多く、整備も洗浄も、もっと機械化されている部分が多いのでは…と想像していたのは大きな間違いでした。
トラムに尽くす作業には、日々万単位の人を運ぶという責任も伴っていて。その責任を果たすトラム職人さんの心意気、それがトラムが平常走行できる最大の理由なのでしょう。
トラムの運賃はどこまで乗っても2.3HKドル=2017年7月現在、約34円です。
決してスピーディではないし、エアコンもないし(ついている車両も1台あるけれど)、雨が吹き込むこともあるし、何台も続けて来るときもあればピタッと来ないこともあるけれど、憎めないしむしろ愛おしいトラム。ぐわぁーん、がたんがたん!とトラムが立てる走行音を聞きながら車窓から外を眺めていると、バンパーに描かれているように口角が自然に上がります。まさにCatch a ride, Catch a smile!

滅多に表に出ることはないけれど、一世紀を優に超えた歴史をこれからも刻み続けるために、尽力している人がたくさんいると知る機会をいただいたので、みなさまに伝えたくブログをしたためました。少しでも伝われば幸いです。
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