
喜靈洲は風光明媚な島でした。鉄条網の中をのぞいては。
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こちら道は緩やかな坂を下りはじめました。と思ったらまた上り坂があらわれて…と山道らしい道を進むとヘリポートが現れました。

東屋はヘリに搭乗する人の待合室なのかな。
かなり山奥に進んできたようで、高い場所にありながら周辺の海が見えません。遠くからは犬の鳴き声も聞こえます。順路に沿って歩みを進めるとその鳴き声は次第に大きくなり、警衛犬…ここは警察組織ではないので警察犬ではなく警衛犬というそうです…の訓練施設に出ました。


懲教署警衛犬隊喜靈小隊。ここにいる優秀なわんズの名称です。凛々しい字面です。
普段は必要がなければ吠えることはないけれど、今日は多くの人の気配がひっきりなしにするので落ち着かない様子。姿はみえないけれど、ワンワンと複数の鳴き声がずっと続いていました。

その先で道が途絶えました。きれいに整備され歩きやすかった道が、土と砂利が混じったような坂道に変わっています。その道は『十五村』と呼ばれた集落があった場所へと続いています。


今はもう廃村となってしまった十五村は、かつて喜靈洲がハンセン病患者の隔離施設だったころ、病の悪化で終末期を迎えた患者が送られた場所だったそう。隔離施設の解散後、刑務所となってからは薬物依存症の厚生施設のひとつとして使われたり、1979年には香港にたどりついたベトナム難民の救済施設として利用されたとのことでした。


難民たちの中には子供たちも多く、香港の団体と難民が協力し合って手作業で施設を整えて行きました。その暮らしの跡は、朽ちた遊具や壁に書かれた絵に残っています。
また緑が茂る山へと戻ります。
道々、きらきらと輝く海が望める美しい場所に、かつて刑務所内で亡くなった受刑者のお墓がありました。

現在は九龍もしくは香港島へ搬送されるそうなので、こちらに埋葬されることはないそうです。たとえ刑務所の島であっても、やっぱりお墓は風水的に一番の吉方位にあるのですね。
黄色に塗られた建物があつまった施設が見えてきました。ここが女性の受刑者が収監されている勵顧懲教所です。

今回案内してくれたご夫妻のMさんが働いていたのがこの施設。女性専用の施設は職員も女性と決まっています。女性職員であっても心身の鍛練は不可欠で、すでにリタイアしているというのに必要な筋肉がしっかり備わった、凛々しい体型を保っていらっしゃいました。足の速さにも自信があって、この喜靈洲で行われるトレイルランの大会で3位という成績も持っているとか。すごいーー
ここ喜靈洲の刑務所に収監される人は刑期が短く、社会復帰のトレーニングも急がなくてはいけません。清掃や商品の組み立てなどの実践形式でトレーニングをするのですが、それには報酬がきちんと支払われ、その収入で、たばこや菓子などの嗜好品も購入することができるのだとか。
これらの説明や支給される衣服(受刑者服)、日用品、日々寝起きする2段ベッドなども見学することができましたが、そこは撮影禁止でした。
シャワールーム、トイレなどの設備のほとんどがステンレス製なのは、割れないようにとのことからだそう(割って武器や脱獄の道具にするのを防ぐため)。また、たばこが購入できるとため、ベッドルームの一角にちゃんとアクリル板で仕切られた喫煙室がありました。受動喫煙を防ぐ権利は受刑者にもきちんと保証されています。

このオブジェも受刑者の手によるものです。
ここまでじっくりと見て回ったため、最後に見るつもりだった植物の育成施設の見学時間が終わってしまっていました。残念。
ですが、メインのイベントが残っています。
ビーチでランチタイム!!


和気藹々とおしゃべりをする職員のご家族に混じって、ひとりずつに配られたお弁当をいただきました。春巻きとサモサと味付きたまごと…けっこうお腹にたまります。そのほかにバーベキューの屋台もでていたのですが、そこに行き着くまでにお腹いっぱいーー(無念)
歩いているときには薄曇りでしたが、ランチタイムには太陽が顔を出し、白い砂のビーチに青い波が小さく寄せて、とてもきれいな景色が見られました。


海を眺めたり記念写真を撮ったり、気がつけば帰りの船の時間になりました。帰りもきっちりナンバリングされた乗船チケットの提示に加え、乗船人数をカウント。加えて、すっかり忘れていましたが乗船時に手の甲に押されたブラックライトスタンプの確認がありました。
スタンプがない人はすなわち往路の船に乗っていない人……だからスタンプを押されたのか!それもブラックライトの!とそこで合点がいったのでした。
前回記したように、喜靈洲は離島でありながら(離島だから?)刑期の短い受刑者が収監されています。香港に10数カ所ある他の刑務所の中で、最も刑の重い人が入るところはどこ?と聞いたところ、意外な返事が返ってきました。
赤柱(スタンレー)だよ。あそこに入っている人は終身刑と思っていい。
あんな風光明媚なところにある刑務所が重罪人の収容施設とは! すぐ近くにお金持ちもいっぱいいるところなのに、なんとーーー!
帰宅して調べてみてわかりました。他の施設は懲教所や更正中心という呼称がついているのですが、赤柱は『赤柱監獄』と書いてあります。監獄ーーーそうか監獄だものね。(監獄と名のつくところは、赤柱のほかに2カ所あります)
船は静かに港を離れます。
バイバイ喜靈洲。

まる一日、現場で働いていた人に解説をしていただきながら島を巡るという大変な幸運。刑務所の島は、気持ちの良い緑が茂り、こざっぱりと手入れが行き届いたところでした。
でも、刑務所はあくまでも刑務所。
指すらかけられない細かな鉄網の仕切りの向こうにはたくさんの問題もあるでしょう。その中で規律がしっかり守られているから、守らせるべく教育する人がいるから、現状が保たれている環境なのだと実感しました。
大変貴重な体験でした。普段は立ち入ることができない島がどんなところなのか、少しだけでもお伝えできていれば幸いです。
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