Vivo トリップレポートよりこの数年、香港飲食店の世界で盛り上がっているのが、古き良き時代の香港をテーマにしたレトロカフェ懐舊冰室(わいがうびんさっ)です。
懐かしさあふれる演出が、若い人たちに逆に「新しい」と捉えられ、次々と新店舗が誕生する人気コンテンツとなっています。個性を競いあう懐舊冰室の中から、注目の4店をご紹介します。
【香港のレトロカフェ 懐舊冰室(わいがうびんさっ)ってなに? 】レトロカフェ、広東語でいう「懐舊冰室」の「懐舊(わいがう)」とは、昔のものごとを懐かしむこと、懐かしい物、伝統的な、といった意味です。「冰室(びんさっ)」とは1960年代から香港に根付く喫茶文化のひとつで、その店の総称。そもそもの冰室は、地域の人たちがふらりと立ち寄ち、お茶や軽食を楽しみながらのんびりと時間を過ごす「お休み処」的なゆるい空気漂う空間です。
変化が激しい香港で、長らくの間に冰室も数を減らしてしまいましたが、ここから改めて冰室文化を継承していこうという若い人たちの手によって、新たな冰室が次々と誕生。それらが「懐舊冰室」と呼ばれ、ちょっと濃いめのレトロ感、スタイリッシュなレトロ感、ポップなレトロ感などなど、古さの中に新感覚も取り込んだ店作りで、今、香港で人気となっています。
トラム車両やトラム駅がドーンと店内でお出迎え。
ユニークな金記冰室の銅鑼灣店香港島の北東にある筲箕灣(サウケイワン)という街にて1967年に創業。45年もの間、街の人々に愛され続けた店でしたが、家賃の高騰から閉店を余儀なくされました。ですが、根強いファンが再開の道の模索し、2013年に西營盤に場所を移して営業再開。古くからのファンに加えて学生などの新たなファンも獲得した人気店となっています。本当の意味での「冰室」からは姿は変わってしまいましたが、人に愛される場としての息づかいは1967年から続くものに引けを取りません。
移転先でも人気店となった金記冰室は、すでに複数の支店を持つまでに成長しました。その3店舗目・2016年4月に開店した銅鑼灣(コーズウェイベイ)支店はです。店舗まるごとが香港島を走る路面電車・トラムをテーマにしたユニークな店内構成になっています。エントランスにはトラム駅を模したオブジェや、その昔、街を華やかに彩ったネオンサインが、フロアの中央にはトラム車両を模した座席がありと、入るだけで気持ちが上がる陽気な雰囲気に包まれます。
パンや焼き菓子などの軽食も多く揃いますが、ガッツリ系定食類が充実しているのが金記冰室らしいところ。カリッと揚げた排骨肉を甘辛黒酢でさっぱり味付けした「芝麻黑糖醋骨」はご飯が進む人気のおかずです。
金記冰室銅鑼灣店は、MTR、バス、タクシーと、どの交通機関を使ってもアクセス便利な街にありますが、あえて110年もの歴史を持つトラムに乗って訪れると、さらに「懐舊(わいがう)」な気持ちになれますよ!
金記冰室 銅鑼灣霎東街5號
営業時間:7:00~0:00
「懐舊」をスタイリッシュにアレンジ。
大人っぽい空間の南龍冰室 同じく銅鑼灣(コーズウェイベイ)にある懐舊冰室の先駆けの南龍冰室も人気があります。ここもまた1961年からの歴史を持ちつつも家賃の高騰で閉店、2年のインターバルの後、2014年にあえて香港の中心地、食の激戦地に場所を移して営業を再開しました。
攻めの姿勢はひと味ちがう店内構成にも現れています。ただ懐かしさを前面に出すのではなく、スタイリッシュにアレンジ。高い天上がすっきりとした印象のメインのフロアには、昔ながらの鳥かごをオブジェにしたライトが輝き、漢方薬などを入れる薬箪笥風のインテリアも壁面を飾っています。2階には美しく敷き詰められたタイル床に丸テーブルが配置され、落ち着く空間となっています。
食事類も充実していますが、こちらではティータイムを楽しむのがオススメです。焼きたてのエッグタルトは、たまごプリンのような少し強めの甘さが特徴。ほんのりとした塩気ある土台の生地は昔ながらのクッキー生地です。エッグタルトはもちろん、パン類もすべて自家製で、持ち帰りのみでの利用もできます。蛋撻(エッグタルト)HK$5/65円、熱咖啡(コーヒー)HK$15/195円です。
エバミルクが入った香港スタイルの珈琲(コーヒー)とともに、ゆったりとした昔ながらの休憩時間を過ごしてみてはいかがでしょう。
南龍冰室 銅鑼灣敬誠街1-3號
営業時間: 7:00~23:00
息子が演出するレトロ空間で、
父が作る本格飲茶が楽しめる 老馮茶居九龍半島の北部、新界(ニューテリトリー)という地区にある大きな街、元朗(ユンロン)に2015年5月開業した飲茶専門店です。「冰室」の定義からは食事の種類が外れていますが、信念とテーマ性が同じということでご紹介します。
歴史と趣のある飲食店が家賃問題で次々と閉店していくことを嘆いた30歳の馮さんが、ならば自分が新たな歴史を作ろうと、有名ホテルで40年間点心師として働いていたお父さんを巻き込んで開店しました。店名の「馮」はオーナー親子の名字です。
1960年代を思わせる住宅や、商店などを内装に盛り込んだ楽しい空間構成や経営関係は息子さんが担当、お父さんは、熟練の技を蒸籠やお皿の中に表現。昔からずっと香港の人々に愛されてきた香港の伝統点心、香港飲茶の味を忠実に守って提供しています。一番人気は、うずら玉子がのった焼売「鵪鶉蛋焼賣皇(28HK$/約364円)」とのこと。
一般的な観光エリアからは少し離れていますが、交通網が発達した香港では移動にさほど苦労はないでしょう。大型店のワゴンスタイル飲茶の人気は衰えませんが、信念のあるこじんまりとした店で味わう伝統点心もいいものですよ。
元朗大棠路66號舗
営業時間:9:00~0:00
「あちょー!」なブルース・リーも。
映画館風+αのごちゃつきが心地良い 老鳳冰室電気街と問屋街、露天市が連なる九龍半島の深水埗(サムソイポー)という下町で、70年の歴史を持つ茶餐廳が映画や映画館をテーマにした懐舊冰室に生まれ変わりました。
映画だけではなく、昔の香港の風景写真や生活用品、看板など様々な装飾を盛り込んでいますが、そのごちゃ混ぜ感が余計「懐舊」な雰囲気をもり立てているようです。変わったのは装飾のみで、好まれていた食事の味は変わらず、さらに改良とアイデアを加えて新旧の多くの人が訪れています。
ほくほくのジャガイモと柔らか牛肉の甘辛炒め「蜜焦薯仔牛柳飯(58HK$/約754円)」は少し濃いめの味付けでごはんが進みます。ワンプレートなのでコンパクトに見えるものの、それぞれ結構な量が盛られているのでボリュームは充分です。
名物の香港式アイスミルクティー「凍奶茶」は氷も奶茶でできていて、ゆっくり飲んでも味が薄まりません。飲み終わりにはシャリシャリの奶茶かき氷も味わえて、1杯で2パターン楽しめる飲み物です。原味波波奶茶 24HK$/約312円
すっきりとしたテーブル脇に飾られている緑の郵便受けに入っているのは、封筒風のデザインになっているメニュー表。細かな点も凝っていて、通うほどに魅力が見つかりそうです。
老鳳冰室 深水埗基隆街216號
営業時間:7:00~22:00
麺やお粥といった食事の種類のほか、店のジャンルも食文化のひとつとして香港には根付いています。「懐舊冰室」というジャンルはまだ成長途中ですが、本来の冰室をよく知らない世代の人たちの柔軟な発想を取り込んだ、個性的な空間として広がりを見せそうです。その時代の香港を知らなくてもどこか懐かしく、そしておいしい。旅の合間に、ぜひ「新しいレトロ香港」に浸ってみてくださいね。きっと、不思議なノスタルジーに包まれると思いますよ。
この記事は、旅行ガイドアプリ『Vivo』に2016年9月13日付けで掲載された記事を再編集したものです。アプリのサービス終了にともない、当ブログへ転載しました(許諾を得ています)。こまかな写真はインスタグラムにアップしています。あわせてご覧くださいね。