目的地は10階でした。
えんぴつのように細長いビルの最上階。エレベーターは1機のみ。
そのエレベーターが……
点検中でした。
貼り紙のいうことには、「階段をご利用ください」と。ああ無情。
しかも。
その階段、
外階段でした。
私、極端なほどの高所恐怖症です。
なんてったって、歩道橋がこわいくらいですから。
自分を奮い立たせ、なんとか5階まで。外階段ですから、否が応でも視野の中には景色が入り込んでしまいます。あああああ、アスファルトがあんなに遠い…。人が小さい…くらっ。(めまい)
「これも仕事だ。この一歩がチケット代に繋がるんだ」と自分に言い聞かせながら、恐怖心を押し込めてなんとか8階まで。
はぁはぁ。ううう。く、苦しい。こわい。こわい。こわい。こわい。
はっ! ←うっかり目線を上げてしまった。
ギャーーーーッ!となりのビルの屋上が見えてるしっ!!となりのビルより高いところに生身をさらしている自分なんてありえないーーーーーっ!!!
強烈な動悸と同時に冷や汗どばっ!
もうだめだ。電話してここまで迎えに来てもらおう。
い、いや、待てよ。もし迎えに来てくれたとして、その間、私ここで静止して待っていなくちゃいけないんだ。
待っている間に地震が起きて階段が崩れ落ちたらどうするよ?
突然の竜巻で階段が吹き飛ばされたらどうするよ?
おそろしいっ!!!!行く。ここまで来たら進むしかねぇ!!
チケット様チケット様チケット様チケット様…
両手でがっしり手すりを掴み、ひたすら上だけを見つめ、呪文をつぶやき、上った。上り切りました!
首の後ろ汗でびっしょりになりながら10階到着。ドアを開け、転げるように中に入る。
わーん!!!(←安堵からの号泣)
こわかった。こわかった。こわかった。
「大丈夫ですか?こんなときにすみません!」と、気遣ってくれている先様完全無視。もう立っていられない~。ひぇ~ん。
半分腰がぬけつつ、でも目的は果たさねば。
ぬぐぐぐぐっはっ。ぬぐぐぐぐっはっ。(←ムリヤリ呼吸を整えています)
涙も乾き動悸も収まり10階まで来た目的も果たし。
「では、失礼します」とあいさつをした私に、先様からだめ押しのひとこと。
「エレベーター点検、あと1時間はかかる予定だそうです…」
ええ。降りましたよ。
上ったんだから降りなくちゃ。次の予定もありますから!
足下を見なくちゃ危ないけど、そうすると一緒に地面が見えちゃう。
下りのほうが何百倍にもこわいーーーーーー!!!のわあああああ!!!
命がけの旅を終え、地面を踏みしめた。せ、生還した。無事返ってきた!
と、安堵すると同時に、強烈に腹が立ってきました。
1機しかないエレベーターの点検を昼間にやっていること、訪問先が10階にあること、外階段なこと、そして、自分が高所恐怖症であること、恐怖におののきながらも
10階まで往復しちゃったこと。
理由はごちゃまぜでしたが、とにかく無性に腹が立って立って。
なんなんだよ、え”え”っ!?キーーーッ!!
頭きた!
もうケーキ食べちゃう!!ナンダンダ?イキナリノコノテンカイハ?近くにある老舗、近江屋洋菓子店へいざゆかん!

オフィスの入り口のようだけれど、ノンノン~。ここが老舗洋菓子店なんです。
定番中の定番のショートケーキと、ドリンクバーをオーダーしました。
こちらは、ドリンクがすべて飲み放題。コーヒー、紅茶はお約束として、目玉は砂糖無添加のフレッシュフルーツジュースも飲み放題。さらには、根菜がゴロンと入った特製ボルシチも食べ放題なの。
その昔に訪れたときはドリンクバーは400円台だったように記憶していますが、現在は525円になっていました。それでも、この質量でこの値段なら納得できちゃう。

小さないちごが2つのったシンプルなショートケーキ。フォークを入れるとスポンジが軽く抵抗するのがイイ!ふんわりだけじゃなく、素材ががんばった感がありつつ、ちゃんとしっとり。ホイップクリームも、子供の頃の誕生日ケーキを思い起こさせるようなもったり感が、懐かしくもあり新鮮でもあり。乳製品です!って濃度をしっかり主張していましたもの。低脂肪とかそんなのありえませんもの。
はぁー。よくぞ10階まで上ったよのぅ。(←ようやく思い起こせるまでに気持ちがこなれてきた)
コーヒーでショートケーキを食し、さて、ボルシチもたべちゃおっかなぁ。昼食をしっかり摂ったあとだけど、精神的な疲労が頂点に達して振り切れた直後だし、食べ過ぎちゃっても許されるよねー。

じゃがいも、にんじん、牛肉がゴロンゴロン。さすがに加減してよそったけれど、周囲の人はかなり豪快に具をてんこ盛ってました。さらりとしているけれど、スープの味がしっかりしているのでとても食べ応えあり。おいしい。おかわりしたい…けど…がまんする。
ジュースは季節替わりなんだって。今日は、ハネージュメロンといちごとグレープフルーツがありました。メロンはそのままいけましたが、いちごはちょっと酸っぱすぎたので、ガムシロをちょっと足していただきました。

こちら近江屋洋菓子店は明治17年創業。初代が滋賀県近江八幡出身だったことから近江屋という屋号が着いたのだって。最初はパン屋さんでその後、焼き菓子やケーキを扱う洋菓子店になったのだそうです。
現在の店舗は昭和41年に建てられたもの。天井が高くて、カウンターには背の高い革張りのイス。店員さんの制服も青のワンピースに白いエプロンと昭和のにおいがぷんぷん。
なんか記憶の片隅にあるなぁー、この雰囲気。“よそいき”を着て親に連れられて行ったどこか。外でコーヒーを飲むことがまだちょっと特別だったあのころ。よそのおばさんと話をする親の傍らで、もくもくと口に運んだイチゴショートケーキ。ちょっとセピアがかった思い出がよみがえってきちゃいましたよ。
そうそう。もうひとつ。昭和の思いがつまったもの。

これは、ちょっとしたおつかいものとして購入した焼き菓子です。この包み、セロハンテープを一切使っていません! ふんわり結ばれたリボンをほどくと、包装紙がはらりと開くの。あー。これも昭和だなぁ。
「おみやげだよ」って渡された包みのヒモを、わーいとほどくときれいな箱が出てきて胸躍ったもの。その時、はさみやカッターを使った記憶はないもの。さらに昔ながらの文字が並ぶ紙袋がなんともいい味じゃありませんか!
とんでもない恐怖からセピア色の思い出まで。ほんの2時間になんとめまぐるしい。
ああ、でも、気分転換できてよかったー。「今年最悪のできごとNo.1」」に間違いないと思われる恐怖から早々に開放されたんだもの。やっぱり甘いものの力は借りるべき時には借りないとね!(借りるべき時でなくても平然と食べちゃってますが、なにか?)
イチゴショートケーキ 210円/ドリンクバー 525円
近江屋洋菓子店 神田店 千代田区神田淡路町2-4
Tel.03-3251-1088
月~土 9:00am~7:00pm/ 日祭日 10:00am~5:30pm(喫茶は5時まで)
年中無休
近江屋洋菓子店のモットーは、「贅沢品ではない洋菓子、リーズナブルだけれどチープではない品物をめざす。」なんとも素敵なモットーです。